天井の穴

すやまよしこ

ゆきちゃんは夏休みに入ってすぐ一人でおばあちゃんのおうちに泊まりに来た。おばあちゃんのおうちに行くときはいつもお父さんとお母さんが一緒だったが、今年は二人とも仕事が忙しいというので、ゆきちゃんはお父さんとお母さんを安心させたくて一人でも大丈夫だよ。と言ってやってきたのだった。
おばあちゃんのおうちはとても古い。トイレは外にあるし、廊下の板はキシキシ音がして、窓は風に揺れてガタガタいうし、柱には目のような模様があるし、その柱にはコチコチと大きな音のする時計もついていた。そして天井には丸い穴が開いている。古いせいかゆきちゃんは少しおばあちゃんの家が怖かった。
「ゆきちゃん、おばあちゃんは裏の畑にいるからね。」
と、おばあちゃんは外に出て行った。ゆきちゃんは、ゴロンと横になった。見上げるとあの天井の穴が目に入った。
「あっ。」
ゆきちゃんは誰かと目が合ったような気がした。慌てて起き上がり、穴から目をそらした。そして、またしばらくしてからそっと穴を見上げてみた。家の中はシーンと静まり返っている。穴の向こうは今度は誰もいないようだった。しばらくゆきちゃんは息をひそめるように穴を見ていた。
「なーんだ誰もいないのか。」
とゆきちゃんは自分に言い聞かせるように大きな声で言って、また、寝ころんだ。ゆきちゃんは怖いけどあの穴が気になってしょうがない。その時、おばあちゃんが帰ってきた。ゆきちゃんは、
「おばあちゃん。天井にね、穴が開いてるよ。」
と言うと、おばあちゃんにくっついた。
「あらら、ゆきちゃん怖かったんだね。でも、あれはただの穴よ。昔、ゆきちゃんのお父さんもゆきちゃん位の年の頃誰かがいて見られてて怖いって言ってたよ。」
と、おばあちゃんはゆきちゃんの頭を撫でながら話してくれた。それから、ゆきちゃんは天井の穴をただの穴で誰もいないと思い込むようにした。ご飯食べる時も、テレビを見ているときもあの穴から誰かが覗いているようなそんな気がしてならなかった。
それからしばらくして、帰る前日の夕方、おばあちゃんが近くの家に回覧版を持って行った。ゆきちゃんはどうして気になる天井の穴を見るため、ゴロンと寝ころんだ。そして、穴に向かって、
「誰もいないの。」
小さな声で言った。返事はなかった。今度はゆきちゃんは勇気を出してさっきよりももっと大きな声で言った。
「誰かいますか。」
すると、どこからか
「いるよー。ゆきちゃん。」
と声がした。ゆきちゃんは慌てて起き上がって周りを見渡したが誰もいない。
「ここだよ。上。」
とまた声がした。どうやらあの天井の穴から声がするようだ。ゆきちゃんは穴を見上げて、こわごわと聞いてみた。
「誰なの。幽霊?おばけ?」
「おらはこの家にずっと住んでいるわらしだよ。みんなは座敷わらしっていってるぞ。知ってるかい。それだよ。久しぶりに家に子どもがやって来てさ、おら、すっごくうれしんだよ。」
わらしは天井で走り回っているようで天井板が揺れパタパタと音がしていた。そして、
「それやるから。」
穴から折り紙の風船がいくつも落ちてきた。折り紙の風船は一つ一つが丁寧に折られていた。しばらくすると、おばあちゃんが戻って来て、ゆきちゃんはわらしの話をしようと思ったが言い出せなかった。
次の日の朝、お父さんが迎えに来てくれた。ゆきちゃんは、おばあちゃんとおばあちゃんのおうちに向かって
「また、冬休みに遊びに行くね。」
と言った。そして、ゆきちゃんはもっと早く声をかければよかったなあと思いながらおばあちゃんの家を後にした。
「今度は私が折り紙持って行くね。」と、心の中で話しかけた。

おわり