のぞき穴

壽山佑治

「あゝ、本当ならもう夏休みなのに。」
と、ため息をついてしまう。夏休みは、いつもの学校ではできないことをできるチャンスなのに…。新型コロナウイルス感染症による、春休み期間の延長で授業日数が足りないとかで、
なんと、たったの13日間の夏休みになってしまったのだ。
「いつもだったら、できることもできないのか。」と、思わずにはいられない。

8月5日 水曜日 晴れ
今日は、ECCの英会話が終わり。疲れて、眠い。「夏休みに楽しい事があるといいな。」ということを考えながら床に就いた。

8月6日 木曜日 晴れ
制服は、熱がこもってしまい、とても暑い。今日はついに、終業式だ。
今日から、たった13日間の夏休みだ。たいして、楽しい事もない。
「ハァ―。何か、ワクワクとか、ハラハラで、ドキドキの面白い事でも起きないかな。」
まさか、この一言であんな目にあうとは思いもしなかった。
そんなことは全く知らず、教室で終業式の放送を聞いていた。教室はクーラーがきいているが、僕の席は窓が近いせいで暑い。校長先生の話は、聞く気がなかったせいか、1言も、耳に入らず、右耳から左耳へと抜けていった。その後は、中学生になって初めての通知表をもらい、帰りの会を終わらせた。美術部員は集合と言われていたので美術室へ行こうとしたら、担任の松本先生に
「1学期、学級委員、よく頑張ったネ。2学期のネ、いつまでやったかな、確かネ、10月位まで、やけんね、クラスの事をネ、あの~、2学期もネ、宜しくネ。頑張ってね。」
と言われ、そんな事なんて言われなくても分かってるのにと思いながら、しょうがなく、
「はい、頑張ります。」
 と、流石に松本先生でも嫌々言っているのが気付いたかもと思ったら
「はい、じゃあ宜しくネ。ハーイ。じゃあ、さようなら。」
とか言って、職員室の方に行ってしまった。
僕が、こんなに嫌がってる事を思っている事すら、気付かないのか。僕の気持ちを察してくれればいいのにと思いながら、美術室へと向かった。美術室では、「夏休みの間、部活はない。」と言う話と「夏休み明けの、20日~22日の間に3年生が壁画を作成するので手伝ってもらうかもしれない。」と言う話だった。その後、お腹もすいたので、さっさと帰ることにした。
外に出ると蝉の声と九大跡地の工事の音と「成績は、どうだった」と言う話声しか聞こえない。梅雨明けしてからずっと暑い。今日も35℃は優に越しているだろう。
家に帰りつくと、大事なものを忘れていた事に気が付いた。
「上靴忘れた。取りに行かなきゃ。」
 家を出て、走って学校に行く。足は道路が、暑いせいで焼けるように痛い。靴箱から上靴を取り、さっさと帰ろうと早歩きしていたら、筥松一号公園の方で何か動いる気がした。なので、気になって公園の中に入ってみた。入ると幼稚園の時に、幼稚園の送迎バスが来るのを待っていた時の事を思い出した。あの時はもう少し公園が、でかかった気がした。だが、体が大きくなったせいか小さく感じる。
すると、お腹が鳴った。そういえば、もう12時だ。速く、家に帰ってお昼ご飯を食べたい。
何かが、ここら辺にいた気がしたから来たが、何もいない。お腹もすいた。
「家に帰ろうかな。」
そう言ったら、猫の鳴き声がした。さっきは、いなかったはずなのに…。いつの間にか、楠の木の下にいる。
「あれ、いつの間に?首輪つけてないし野良ちゃん?」
話しかけると、こっちを見て
「ニャー」
と鳴いて、隣の民家の塀を越えて行ってしまった。塀は高いから、ジャンプしても見えない、どこからか見えないか探すと、1か所穴が空いてる場所があった。

覗くと、古い民家があり奥に川が見える。ふと、
「あれ?こんなに、多々良川は近くないはずだけどな~。」
覗くのを止めてから周りを見回すと、いつも見てる景色ではなく野山しかみえない。
「昨日、習い事が遅くまであったせいで、眠いからかな。気のせいだろう。」
と、笑ってから目をこすった。そして、もう一度見ても
「景色は全く変わりないし、本当にここはどこなんだ。」
とりあえず、さっき見えた民家に行ってみよう。さっきの民家へ行き戸を叩き、
「すみません。誰か居ませんか。」
しばらく待った。だが、いくら経っても返事が無い。空き家なのか、留守なのか。どちらにしても、居てくれないと困る。だって、ここには家が、ここ以外に無いから。
「すみません。誰か居ませんか。」
大きな声でハッキリな声で、言ってみると、
「はい。どうかされましたか。」
と聞こえたので、少しほっとした。すると、ドアが開きおばあさんが出てきた。
すると、おばあさんはしわがれた声で
「はい、なんでしょうか。」
「あの、ここはどこですか。」
そんなことを聞く事に驚いたように
「秋田県の皆瀬ですよ。」
「ウソだ~。じゃ、今年は何年ですか?」
「大正10年だよ。あんた、こんな所に何しに来たんだい?」
「おばあさん。嘘はよしてくださいよ。でも、なんでこんなとこに。」
と言って、寝不足とパニックで倒れてしまった。

8月7日 金曜日 曇りのち晴れ
「おーい、聞こえるかい?さっさと、起きてくれよ。」
と、言う声で目が覚めた。
「ここって、どこだっけ?家にいつ帰ったけ?」
急にしわがれた声が聴こえてきた。しわしわのおばあさんを見ると
「あなた、誰ですか。てっか、ここはどこ。」
「あんたこそ、誰だよ。急に倒れたりして!」
寝ぼけてよく思い出せない。今日はいつだっけ。何してるんだっけ。あゝ眠いな~。もう1眠りしようかな。
「半日も寝ていたから、寝ぼけたのかい?」
そういえば、黒猫について来てから。えぇっと、大正10年にタイムスリップして。ん~。そこからが、思い出せない。
「グー」
そいえば、丸1日何も飲み食いしてない。お腹が減ってるのと、のどが渇いて気持ちが悪い。
「あの~。何か食べさせて下さい。丸一日何も食べてないんです。」
「あゝ、そうかい。こっちに、用意してあるよ。」
そう言って、おばあさんは居間へと連れていってくれた。
居間へ行くと、おじいさんがいた。
「おはようございます。」
と挨拶すると、おじいさんは
「おはよう。婆さんが倒れた君を運んで来た時は、ビックリしたが何ともなくてよかった。早く、朝ご飯を食べなさい。」
「じゃあ、お言葉に甘えて。頂きます。」
いつものご飯とは違うが、何か落ち着く。1日ぶりのご飯は美味しい。いっきに食べきり
「ごちそうさまでした。美味しかったです。」
すると、おじいさんは
「良かった、良かった。ところで、君の名前は?どこから来たの?」
「信じてもらえないかも知れませんが、僕は、壽山佑治と言います。未来から来ました。」
おじいさんは、驚きながら
「信じがたいが、どうやって来たのだい。」
ここまでの、道のりを事細かに説明すると
「そうか、帰り方が見つかるまで家に居ていいからな。」
この後4日間で分かった事だが、とても優しい。この人達に比べ、現代人は人の事を考えず、相手を傷つけている。

8月8日 土曜日 曇りのち雨
川沿いを中心に探す。だが、塀も黒猫もいなかった。

8月9日 日曜日 曇りのち晴れ
畑や田を探す。だが、塀も黒猫もいなかった。

8月10日 月曜日 晴れ
川で魚を捕り、七輪で魚を焼き、黒猫をおびき寄せてみる。だが、黒猫は来なかった。
4日間、外をどれだけ探しても、塀も黒猫もいなかった。

8月11日 火曜日 晴れ
こんな事を繰り返して4日目だ。
今日は、おもいきって遠くを探すことにした。高松岳の方も探し見る。
正午からも、探したが見つからなかった。山を下り、日が暮れる前に最後の望みと思い川辺を探してみた。すると、あの筥松一号公園で黒猫を見つけた時に似た感覚があった。
「どこだ黒猫。塀へ案内してくれ。」
そう叫ぶと、さっきは居なかったはずなのに、いつの間にか、僕の足元に黒猫が居る。
「よし、これで帰れる。」
喜びのあまりスキップしながらついて行く。黒猫について山道を5分程歩くと塀があった。黒猫は、あの時のように飛び越えて行った。覗ける穴を見つけたので、覗いてみると

また、川が見える。奥の木は社会で学習した、亜寒帯に生える針葉樹ぽい。覗くのをやめ、見回すと
「なんか、むっちゃ寒い。もしかして、ここはロシア!」

「何でー、ここにー、飛ばされー、たのー。」
声がこだました。3回程こだますると、声は針葉樹の森に消えた。
ここに来てしまったのは、僕が黒猫に会うために強引な手を使ったせいか。今日は、スリップする前に、猫探しに夢中になっていた。そのせいで、お昼ご飯を抜いたし、山を登ったので余計にお腹が空いた。
 日が落ちてきた。日が陰ると寒くなる。早く街へ行かなきゃ。あっちに、光が見える。僕は食べ物を求めて、光の見える街へ行くことにした。
歩き始めて、しばらくすると日が暮れた。すると、予想道理寒くなった。それから、もう少し歩くと街に着いた。「その時、食べ物と再会できる。」その喜びのあまり、またもや気絶してしまった。

8月12日 水曜日 晴れ
目が覚めると、ベットに寝かされていた。部屋には、誰もいない。ベットのあった部屋を出ると、男の子がいた。
「ロシア人は、確か・・・。そう。ロシア語だ。ロシア語ってどんなの?」
すると、男の子は
「ダイジョウブデス。ボクハ ニホンゴ シャベレマス。」
驚いてる暇はない。詳しく、ここの事を聴かなくては
「すみません。ベットに寝かしてくれて、ありがとうございました。それで、ここってどこですか。」
「ココハ、ロシアデス。アナタハ、ニホンジンデスカ。」
「はい、そうです。僕は、壽山佑治と言います。」
「ドウシテ、アソコデタオレテイタンデスカ?」
「それはですね…。」
「『1学期の終業式の日に、上靴を取りに行った帰りに公園で黒猫を見つけて追いかけて、塀を黒猫が飛び越えたので、のぞき穴から覗いたら大正10年にスリップして、6日間そこで過ごしたが、昨日の夕方に黒猫を見つけて塀まで案内してもらい、塀を覗くとロシアに来てて、そこから歩いて、ここの街に来た。』って感じです。」
「タイヘンデシタネ。ソレナラ、カエレルマデ、イテイイデスヨ。」
「ちなみに、あなたのお名前は?」
「ボクハ、    デス。」
    は、日本のアニメが好きで、日本語を勉強していたそうだ。彼は、衣食住を提供してくれる代わりに、日本語や日本の事を教えてくれとのことだった。
彼は、色々な所に連れて行ってくれた。そこで友達になったのが    だ。彼は   の友達でバヤンを弾く名人だ。バヤンとは、ロシア式のアコーディオンで右手側のボタン式の鍵盤をおすことでメロディーを奏でることのできる楽器だそうだ。
僕はロシアを去るまで、毎日3人で集まり    のアコーディオンのメロディーに合わせてダンスをしたり、僕は日本の昔話、二人はロシア民話を話したりしてくれた。
帰る事になったのは、この後すぐの事であった。
その日は、   から貰っていた、お金で街へ食べ物を買いに行った。すると、あの時、あの猫に会った時の感覚と似ている。だが、黒猫はいない。いるのは白猫だ。ただ、何か黒猫以上のオーラを感じる。僕は、何故か白猫の後をついて行っている。ついて行きたくて、ついて行っているもではない。体が勝手に動き出しているのだ。しばらくすると、街の中だったのが、いつの間にか街外れにいる。街外れの路地に入っていく。路地を抜ける前に思い出したことがある。   と、   に一生会えなくなる感じがした。
路地を抜けると、眩しさの余り目が開けれない。
目を開けると、自分の部屋にいる。
「何だ夢か。」
夢なのかと落ち込んだ。

だが、右手に見たことのない硬貨を握っていた。